098157 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

蝉時雨

I heard SATIE




まっくらでおととにおいしかしない宇宙で
おれの目の奥の世界は火花をおこした
三原色がはじけてどっか飛んでった。

いったいなにが怖いのだろう
まっくらはとても光っているのに。



I heard SATIE



「利央、おまえ残念だったなあ」
「同情したいのか憐れみたいのかはっきりしたらァ?」
準太の、南国のかおりの肌が、アンダーに隠れた。

あんたに滲みついた埼玉と閉じ込められた土のにおいは
あたたかい風に、少しだけ攫われた、気がする。



準太は5泊6日の修学旅行を終え帰ってきた。
スポーツバックにお土産をたくさん買い込んで帰ってきた。
「沖縄どうだったのォ」
「あかるくて、開けてたよ」

その目には鬱蒼とした緑とハイビスカスの赤と
すこしの黒が、残っていた、気がする。




(あんたなんでそんな顔してんの)
(なんて顔、してんの)






「でも利央はこれなくてよかったか」
たしかおまえの代から京都奈良だもんなあ

「ちょっなんでよォ!」
「だっておまえびびりじゃん」
塹壕とか、ジャングルみたいな森とか
この世じゃないようなところもいくんだ。
暗くて、ライト消して、盲目になった世界で
みんなで手をつないでお祈りをするんだ。


ああ、神さま、って、おもった。
(準さん、あんたが?)
「ははっなんて顔してんだよ」



(戦争とか、平和とか)
(そういうことは難しいよ)
(おれはばかだから)
(でも)
(あの世を見てきたよ)





「沖縄の海行きたいなァ」
「おれもこんどは、バカンスでいきてえな」
夏なんかきっと暑いんでしょ日差しも強くて
たぶん、の突き抜けた青空が頭にひろがった。



イメージでゾーニングされた楽園は
どこかへ繋がっていたのかな。

「おれ夜の海いきたい」
「はあ?街灯なんてぽつぽつしかなかったぞ」
おまえじゃまず一人で歩けねえよ。

「準さんさァ夜に抜け出したの」
「おれはびびりじゃねえんだよ」
だれかさんと違ってな!




まっくらの海とどこかの宇宙
その奥が結びあってひかる
あんたそれ見つけたんでしょ

(おれもそれ見に行きたい)
(見れるよ)
(同じバカだもん)



「手はァ」
「ああ?」
「繋いでくれんのォ」
「おまえほんと成長してねえなあ」



着いたらお祈りしよう。
あんた一人ろくなことしなかったでしょう
おれいっしょについてってあげるよ。




















準さんはリアリスト。実は同じくらいロマンチスト。
(科学者が熱心な宗教家、みたいな振れ幅)

説明できないものがあるのを感覚でわかってる人。
でも見ないふりできないしもどかしいから、やっぱり空想は好きじゃない。



© Rakuten Group, Inc.